日本以外の通貨危機と預金封鎖(アイスランド,キプロス)
アイスランドクローネ通貨危機と預金封鎖、そして国家破産
イギリスの北の北極圏、グリーンランドのすぐ近くにアイスランドという国があります。アイスランドは金融業に特化し、高金利を謳って海外からの投資マネーを集めていました。当時のアイスランドクローネの金利は15%以上にも上り、 ”通貨価値が安定していれば” の条件下ではおいしい投資先としてユーロペッグ制を取り、投資を集めていました。
さらにアイスランドの銀行は、こともあろうにサブプライムローンなどの商品化証券に手を出していたのです。これらは確かに高金利やハイリターンをもたらす投資でしたが、結果的には超ハイリスクでもあった投資です。
2008年のリーマンショックにてすべてが崩壊
そして2007年バリパショック、2008年サププライムローン問題を発端としてリーマン・ショックが起こり世界的金融危機となり、主産業が金融業であったアイスランドはその余波をモロにくらって不良債権が膨大化、国家の危機に陥りました。
ユーロペッグ制は崩壊し、アイスランドの自国通貨アイスランド・クローネは暴落して通貨危機を引き起こし、外貨建て債務が急増し銀行は虫の息、アイスランド政府が非常事態を宣言して国内の銀行を政府管理下におきました。
国内のランズバンキ銀行や最大手のカウプシング銀行も国有化されて、預金者は自分の預金を動かせなくなってしまいました。実はこの預金者はアイスランド国民よりもアイスランドの高金利に惹かれた外国の預金者のほうが多数だったのです。
サムライ債がデフォルト
当時のアイスランドはロシアへ救済を求めたものの危機は収まらずIMFにまで支援を要請しましたが、実に780億円もののサムライ債がデフォルト(債務不履行)しました。
債権者である英蘭が破たん処理に反対
アイスランド政府は銀行を破綻処理して債務を帳消しにすることを検討しましたが預金者が多くいるイギリスやオランダからの大反発をうけ、国交断絶まで通告されました。
しかし破綻処理をしなければアイスランド国民に大量の借金がのしかかることになるため、アイスランド国家そのものが崩壊する可能性さえ出て来ました。
そこでアイスランド大統領が拒否権を発動、さらに2度もわたり国民投票を行い圧倒的多数でこれを否決、事実上借金を踏み倒しました。アイスランド国民から見れば、自己責任の投資で失敗した銀行と他国の借金をなんで自分たちが返さなきゃいけないんだ?って話ですから当然です。
預金封鎖、国家破産、その後のアイスランド。破産の成功例?
その後のアイスランドは金融危機と国家存亡の危機というダブルパンチで大分混乱しましたが、借金を踏み倒してチャラにしたことと、通貨安によって輸出産業が息を吹き返したことから、目覚ましい回復を見せます。
EUに加盟せずユーロを導入せずに自国通貨を発行していたことも幸いし、通貨安による輸出産業の回復という恩恵が大きくデフォルトから実にたった4年で、自国の債券の格付けを投資適格まで戻したのです。しかしそこまで行くにはいろいろ大変な事業がありました。
銀行を破綻させ、納税者を保護、主犯の役員や銀行家を逮捕
中でも異例なのが、銀行を救済せず、納税者を保護し、主犯でもある企業役員や銀行家を実際に逮捕して責任を負わせたところです。
欧米でも主要な金融機関が危機に陥っても税金でその救済をし、その負担を国民へ押し付けてます。国家破産ともなれば、主犯である彼らは国外へ逃亡し、膨大な借金が国民にのしかかって来ました。
しかしアイスランドはその真逆であり、責任あるべきものに責任を負わせ、無責任な納税者には負債を負わせず、ダメな銀行を実際に破綻させたのです。国民資産を守り、負債を拒否した、国家破産としては成功例とも言えます。
”大きすぎて潰せない” そんな銀行や会社がありますが、そんなもの延命させても悪影響しか産まないのは周知の事実。ダメなものはさっさと潰すことが最良の結果を生むという証明でもありました。
しかしそういった大きすぎて潰せない会社をもっているのは国を動かしている支配者でもあるため、中々このような結果を生むことにはなりません。これはアイスランドが世界どころかヨーロッパの中でも小国であり、取るに足らない影響のない国だからこそできたことでもあります。日本がもしアイスランドと同様、預金封鎖や国家破産になったとき、このような状況になる可能性は低いでしょう。
2008年、中央銀行を国有化、通貨クローナが無価値となる。株式市場は停止、国家破産
2009年、内閣総辞職、総選挙。政府は銀行を救済するためにイギリスとオランダに月賦で5.5%の金利で15年間借金を支払い続けるという提案をする。
2010年、国民が抗議デモを多発。大統領が拒否権を発動、借金返済を拒否し、国民集会を宣言、国民投票を行い93%が拒否で可決。政府は危機を招いた責任者の捜査を行い、企業役員や銀行家の多くが逮捕。さらにインターポールまでが進出、犯罪グループに国外退去を命じる。憲法改正のための国民議会が選出、立候補者から25人の市民が選出、新憲法を国会へ提出。
2011年、国際通貨基金(IMF)の支援プログラムから脱出
自分の預金が奪われた!キプロスの預金封鎖
地中海の小国キプロス共和国は21世紀におなって「自分の預金を勝手に政府に奪われる」 という悪しき政策:預金封鎖が実際に行われたのです。
2013年リーマンショックに伴う世界的不況と、同時期にユーロ圏に加入したことによる経済的混乱が混ざって金融機関の経営が悪化、キプロス政府の公的支援が必要な状況に陥りました。支援額は175億ユーロ(約2兆円余)と同国の名目GDPに匹敵する巨額になったため、キプロス政府はユーロ圏諸国に支援を要請しました。
しかしギリシャをはじめとしたPIIGS処理に頭を抱えていたユーロ諸国は、キプロス国内の銀行預金に課税するなど自力で58億ユーロを捻出するなどの一定の条件を押し付けました。これがいわゆる 「預金税」 と呼ばれる、国民の預けているお金を税金という名目で勝手に奪い取っていくと預金封鎖を実施しろということでした。
すべての預金者に税金がかかる
銀行に預けた自分のお金が勝手に政府によって奪われていくのですからたまったものではありません。当然キプロス国民や議会が大反発しましたが、噂を聞きつけた預金者が自分の預金を引き出そうと殺到、銀行は大混乱に陥りました。
預金税の内容は10万ユーロ(13万ドル)未満の銀行預金には6.75%、10万ユーロ以上に9.9%の課税と高額預金者のほうが多少多いものの、すべての預金者が対象であるため、金持ちも庶民も関係なく対象になりました。結局、預金税はEU諸国とキプロス政府の間で合意され、およそ2週間もの間預金封鎖が続き、封鎖が解除された後も引き出し制限がかかるなど、預金者には大きなショックとなりました。
ビットコインを持っていた人は預金封鎖を逃れられた
しかしキプロスの預金者たちもただ手をこまねいていたわけではありません。預金封鎖を回避しようといろんな手を考えて実施しており、その一つとして有効性が確認されたのがビットコインでした。
中央銀行という管理者をもたない仮想通貨:ビットコインは、管理者が存在しないため政府や金融機関の支配を受けることがありません。そのため銀行が閉鎖された状況下においても、ビットコインは使えており、ビットコインで決済したり、ビットコインのATMで現金を引き出すことができていたのです
預金以外の資産を持つことが回避方法
日本の1946年に実施された預金封鎖でも、「預金封鎖を回避し世界1位の資産家になった森泰吉郎」のように、現金や預金だけではなく別の資産に分散させておいた人たちが難を逃れています。現在キプロスにはこの経緯を学んだ人達によって、いたるところにビットコインのATMが設置されています。他にも預金封鎖や通貨危機が頻繁に起こるブラジルやアルゼンチンでもビットコインの需要は高まり続けています。21世紀は政府や中央銀行がコントロールする法定通貨から仮想通貨へ資金の移動が起こる時代になっていくでしょう。