4兆円まで増やし3兆円を失ったアル=ワリード・ビン・タラール王子

世界有数の富豪アル=ワリード・ビン・タラール王子

アラブ世界といえばオイルマネーでとてつもない資産家がゴロゴロいるイメージです。しかしアラブ諸国では王族が数千人単位で存在し、国王や王位継承者のような特別な存在でなければ突出した存在というのはあまりいません。

そんな中異色の存在なのが「アル=ワリード・ビン・タラール王子」です。

彼の祖父はサウジアラビアの初代国王アブドゥルアズィーズ・イブン・サウード、母方の祖父はレバノンの初代首相リヤード・アッ=スルフ、そして父は王位継承権を放棄したタラール王子、という正真正銘王族の血をひいている王子様なのです。ただ父の代で王位継承権を放棄しているために、実際に国王の出世レースからは外れた流れになります。

”投資” によってもっとも成功した1人(4兆円)

彼は王族の身分に生まれながらも、株式や不動産などの投資などで財をなした起業家・投資家です。元々の資産は3万ドルほどしかないく、その資金も底をついて借金することもあったのですが、サウド家の王族であることを武器に次々に公共事業を請け負いリヤドの事業で大成功をおさめます。

その資産は2008年では133億ドルとフォーブスの長者番付にて22位にランクインするほどの世界的大富豪です。その後も順調に資産をふやしつづけ、2015年には320億ドル(約3兆9500億円)までに到達。およそ4兆円の投資家となっていました。

その成功っぷりはアメリカ人(及びアメリカへの移民)以外で最も成功した投資家と言われており、あの『タイム』誌によって「アラブのウォーレン・バフェット」と名づけられるほどの存在感を示しています。

王子で大富豪なのに1日14時間働く

彼の仕事っぷりは尋常ではありません。

海外資本であったUSCBとサウジ・カイロ銀行(SCB)とを合併させユナイテッド・サウジ銀行(USB)を誕生さます。さらにサウジアラビア最大のスーパーマーケットチェーンのひとつ、アルアジジア・パンダの株の過半数を取得し、別のスーパーマーケットグループのサボラと合併させます。

そういった事業再編、既存事業のマネタイズ化に非常のよく尽力していました。当時は1日14時間働いており、王族で資産も十分にあるのにどうしてそんなに働くのかと知人たちにも驚かれていました。

やはり成功する人は成功するなりの行動を起こしていることがよくわかりますね。

アルワリード王子の所有する資産

  1. リヤドにあるサウジアラビア一のビル(高さ303m)のオーナー
  2. 1,000mを超えるジッダ・タワーの建設プロジェクトの中心人物
  3. エアバス社の最新鋭旅客機A380を3億ドルでプライベート機として購入
  4. さらにジェット機内を1億ドルをかけて改装!

 

2015年はその4兆円を寄付すると表明

4兆円もの資産を保有していたアルワリード王子ですが、2015年にはその資産4兆円ほぼすべてを寄付すると表明しました。その資産は投資会社キングダム・ホールディング4280.SEの株式など、サウジ国内外の資産を含めたものです。資金は自身の名を冠した慈善団体を通じ、医療関連や女性の権利向上などの分野に分配されるということです。

正直自身の作った慈善団体に寄付するというのは、アメリカなどで大富豪が想像税逃れや資産隠蔽のためによくやる行為であり少し疑いの目を向けてしまいます。ただサウジアラビアの相続税状況はよくわからないので、本当に寄付行為なのかもしれません。

 

イスラムの教え「喜捨」を守り、寄付活動にも熱心

ロイターの発表以前にもアルワリード王子はたくさんの部門に寄付を行っています。これはイスラム教の教えでもあります。イスラム教には5行というムスリム(イスラーム教徒)に義務として課せられた5つの行為が定められています。

  1. 信仰告白(シャハーダ) 「アッラーの他に神は無い。ムハンマドは神の使徒である。」と証言すること。
  2. 礼拝(サラー) 一日五回、キブラに向かって神に祈ること。
  3. 喜捨(ザカート) 収入の一部を困窮者に施すこと。
  4. 断食(サウム) ラマダーン月の日中、飲食や性行為を慎むこと。
  5. 巡礼(ハッジ) 経済的・肉体的に可能であれば、ヒジュラ暦第十二月であるズー=ル=ヒッジャ月(巡礼月)の8日から10日の時期を中心に、マッカのカアバ神殿に巡礼すること。

断食、礼拝、などは知っている方も多いですが、喜捨という教えもあるのです。これは”富める者が貧しい者に富を分け与えることは義務” という教えであり、収入の高いもの、資産家・富豪というのは貧しい者に富を分け与える義務があるというものです。王子はこの教えを守って寄付活動にも熱心です。

またルーブル美術館のイスラム部門には、毎年1億ドルを寄付しているのです。

 

ムハンマド皇太子の台頭により逮捕・拘束されてしまう

アルワリード王子は自身の会社にたくさんの女性が働いていることもあって、サウジアラビアの女性の地位向上にも熱心に活動してきました。

サウジアラビアでは女性は公の場で髪や肌を隠すことを義務づけられています。しかし王子の会社のスタッフは伝統的な衣装ではなく、デザイナーズ・ブランドの服を着て働いています。

アルワリード王子自身もサウジアラビアの閉塞的な文化を変えようと行動を起こしており、政治改革にも着手していると言われてきました。

しかしこれらの行為が後に裏目に出てしまいます。

権力の掌握を狙うサルマーン国王とムハンマド皇太子に潰される

2017年11月アルワリード王子はムハンマド皇太子が指揮する反汚職委員会により逮捕・拘束されてしまいます。逮捕容疑は汚職ということでしたが、これは明らかに急進的な改革を進めるサルマーン国王とムハンマド皇太子の体制に対する抵抗勢力つぶしと見られています。

サウジアラビアの実験を握る新しい国王サルマーン国王とムハンマド皇太子による急速な権力の掌握に対して、アルワリード王子の存在は大きな障害だったのでしょう。事実、明確な事実説明もないまま逮捕されてしまっています。

ただ王子など逮捕・拘束の対象350人は首都リヤド(Riyadh)の高級ホテル、リッツ・カールトン(Ritz-Carlton)に閉じ込められていただけであり、いわゆる日本の留置場というところではなく、高級ホテルから出られないという状況に過ぎません。とはいってもサウジアラビアは今でもむち打ちや斬首などがあるので、中では何が行われているかわかったもんじゃないですが・・・

リッツ・カールトン(Ritz-Carlton)

逮捕によって3兆円の資産が失われる

この逮捕によってアルワリード王子の会社であるキングダム・ホールディング・カンパニーなどの株価が大幅に下落してしまいます。王子がこの会社の大半の株式を保有していたため、株価の下落は王子の資産の減少と直結しています。実に逮捕から数日で3兆円近い資産が失われたという報道さえあります。

逮捕前の11月2日時点と比較すると、タラル王子の資産額は280億ドル(約3.1兆円)の減少となっている。フォーブスのリアルタイムビリオネアランキングで、彼の資産額は現在159億ドルと算定されている。タラル王子は2日時点で世界の富豪リストの64位だったが、現在は83位となっている。

アルワリード王子は釈放されるが資産を大きく失う・・・

その後アルワリード王子は当局との間で金銭を含む調停合意が行われた結果、釈放されました。

お金と引き換えに自由を再び手に入れた王子ですが、その際いくら払ったかの情報は公開されていません。とはいえ場合によっては抵抗勢力を簡単に殺してしまう皇太子のやることです・・・おそらくは資産の大半を奪われているか、もしくはサウジアラビア国内での事業の禁止などがなされた可能性が高いでしょう。

この釈放の後、アルワリード王子は公の場に出てきていません。

これらの事件は世界的な起業家・投資家を1人潰してしまうと同時に、サウジアラビアという国の閉塞性と異常性が存分に確認できた事実でもありました。中国と同様、サウジアラビアも資金はあっても民主国家ではなく、恐ろしい独裁国家であることは間違いありません。