漫画格差:TOP以外の漫画家の低年収と二次利用フリー 「ブラよろ」 の稼ぎ

「ブラよろ」 の二次利用をフリーにした佐藤秀峰氏

漫画家というのは雑誌に漫画を掲載し、その原稿料と出版される自身のコミックスなどの著作物の売上が収入になっています。基本的にこれらの著作物は知的財産として [著作権] が発生するために、文明国では複製などはされずに保護されることが保証されています。いわゆる野蛮国ではこういった権利が守られてないのでコピー天国になっていますが、そんな国は永遠に文明国にはなりません。話がそれましたが、このように著作権は漫画家の利益を守る上でとても重要なことです。しかし自らその著作権を二次利用フリー(放棄ではない)にした漫画家がいました。「ブラックジャックによろしく」 の作者、佐藤秀峰氏です。

佐藤秀峰氏ブログ引用:

「著作権という概念に囚われずに、著作で利益を得る方法はないでしょうか。

僕は『ブラックジャックによろしく』という作品の二次利用フリー化を行ないます。
その結果、どのように作品が拡散し、利用され、著者に利益をもたらすのか、もたらさないのか、その調査をしたいと思っています。
その先に見えるものが、きっと次のヒントになると信じています。」

佐藤秀峰氏は2012年の8月に試験的に自身の漫画である 「ブラックジャックによろしく」 の2次利用をフリーにしました。二次利用フリー0というのは商用・非商用を問わず、作品を出版したり、小説化や映画化などを無料で自由に行うことができる、つまり著作権の解禁といったものです。著作権を放棄したわけではないので、漫画を複製して販売なんてことはできません。あくまでパロディやアレンジとして二次利用していいってことです。漫画家にとって命綱ともいえる著作権を部分的にとはいえ解禁してしまったこの行為は一般読者だけでなく漫画・出版関係者にとっても大きな衝撃でした。

二次利用フリーにしてから 「ブラよろ」 の儲けは3000万超え

本人ブログ:http://ch.nicovideo.jp/shuhosato/blomaga/ar204961

多くの読者だけでなく出版関係者にとっても著作権を解禁して、佐藤秀峰氏の稼ぎはどうなるんだろうか?と心配、あるいは興味を持ちました。そして当の本人は2013年4月にその結果をブログにて公開をしました。結果は、なんと半年で37,045,934円の儲けでした。しかもこれらのほとんどが電子書籍関係の儲けであったために、コストがかからない電子書籍においては、このほとんど全てが純利益となる結果になったのです。半年で3700万円の利益というのは月単位で650万円になります。佐藤秀峰氏も言及していますが、この結果は単行本漫画の印税に置き換えると80万部のヒットを出したのと同額だそうです。

佐藤秀峰氏の分析によれば、二次利用フリーによっていたるところでいろんな広告に 「ブラよろ」 がパロディとして使われていったために作品の認知度が高まり、そういった方が作品に興味を持って購入してくれたということです。確かに興味を持った人は漫画を読むだろうし、一度気に入れば全巻購入する人だって珍しくありません。またブラよろには、著作権フリーではない 「新ブラックジャックによろしく」 という続編があり、当然興味を持ってくれた人はこちらも購入することもあるでしょう。広告ビジネスとしてこの二次利用フリーという試みは一定の結果を出したのです。逆に言えば佐藤秀峰氏が自らリスクを抱えてもこれだけのチャレンジをしなければならないほど、今の漫画家出版ビジネスはやばくなっているのです。

80万部のヒットは指折るほどしかない漫画家の収入・人気格差

上記は2012年度の各大手出版社の単行本発行部数ランキングです。3社合計で見ても100万部を超えるタイトルはわずかに7つ。ちなみに2012年の新刊点数は1万2000点を超えています。1万2000点の中でたった7つ、確率にすると0.0058%です。低いです。確率的に宝くじといい勝負かもしれません。この中で一番低い15位にランキングされた作品の発行部数の最低は18万部。この作家さんの受け取る印税額は、18万部の場合、印税を50円と仮定して約900万円。さらに連載作家ともなればアシスタントも多く抱えているために、ここからさらに経費が引かれます。よく漫画家は原稿料だけでは赤字で、単行本印税でようやくプラスという話ですが、上位の方でこれではこのランク外の作家さんはどうなっていると?と心配になるレベルです。

漫画家は業界TOPと10位の格差がありすぎる

もちろんTOPはずば抜けています。集英社の看板ワンピースは約400万、これだけで2億円の稼ぎです。さらにワンピースの場合は既刊が70巻以上あることやアニメや映画、玩具、企業とのタイアップなどのメディアミックスなどが星の数ほどあるために、稼ぎはとんでもないことになっています。詳細は不明ですが、噂によると尾田栄一郎氏の年収30億円オーバー、推定試算350億円らしいです。多分もっとあるでしょう。ちなみにドラゴンボールで有名な鳥山明氏の全盛期は50億円(漫画書いていないのに現在も10億オーバー・・・)、ハリーポッターで有名なイギリスのJKローリングさんは年100億(円だよな?ポンドだったら1兆円いっちゃうけど・・・)オーバーとこちらも凄まじい人がいます。遊☆戯☆王カードでカードがバカ売れした高橋和希氏も一時期とんでもない収入になったという話もあります。本当に1度TOPになれば稼ぎは凄まじいものがあります。

参考:尾田栄一郎氏の年収推測内訳
原稿料:5万円×一話20ページ×48週=4800万円
印税:420円×3234万部(年間)×10%=13億5828万円
原作使用料:アニメ1話30万円×50週+映画一本100万円=1600万円
海外収入:2億円(編集者の予測)
キャラクターグッズ:15億円
年収:31億2228万円

ですがTOPだけがそうであって、TOP10位をみても80万部いってない人のほうが多いのが現実なのです。80万部いってるのは講談社と集英社では3人、小学館にいたっては1人だけです。ちなみに高収入である医者(開業医)の平均年収は3,000万、弁護士(独立)や中小企業の社長の平均年収は2000万円程とも言われますが、漫画家は業界トップ10位にランクインしてもこのレベルなのです。

今の漫画家さんで20万部も入ってない人は900万も稼げていません。仮に1万部売れる単行本を年に4冊発行しても印税は最大で200万円です。最近では漫画の単行本は初版5千部スタートで、重版がかかって1万部行けば御の字というのが常識となりつつあります。昔は発行部数が10万部を超えるとまずまずのヒットと言われましたが、最近は3万部でヒットと言われます。印税率も一律10%と言われた時代は過ぎ去り、8%、5%という数字もよく耳にします。漫画家を使い捨てにして編集者ばかり守っているという話もよく聞きます。ランキング外だけでなくTOP10に入る人ですら原稿料は経費で使い切ってしまうので、関連グッズや何かしらのビジネスを展開していない限り、印税額がほぼ年収となります。残念ながら、漫画家の平均年収はサラリーマンの平均年収よりもずっと低いのです。確かに漫画家は売れれば一発逆転ができる可能性がある職業ですが、その確率は途方もなく低いものでしかないのです。

漫画家の推定年収など参考データ

2004年度の著名漫画家の推定年収

古いので現在は大分変わっている
鳥山明   14億8300万円 「ドラゴンボール」
高橋和希   5億1000万円 「遊☆戯☆王」
藤子F不二雄 4億5600万円 「どらえもん」
荒川弘    4億5000万円 「鋼の錬金術師」
長谷川町子  4億4700万円 「サザエさん」
岸本斉史   3億7400万円 「NARUTO」
許斐剛    3億4700万円 「テニスの王子様」
尾田栄一郎  3億3300万円 「ONE PIECE」
やなせたかし 2億7000万円 「アンパンマン」
井上雄彦   2億2000万円 「スラムダンク」
北条司    2億 700万円 「シティーハンター」
矢沢あい   2億 300万円 「NANA」
武論尊    1億2400万円 「北斗の拳」
佐藤秀峰   1億2200万円 「ブラックジャックによろしく」
秋本治    1億2100万円 「こち亀」
弘兼憲史   1億 700万円 「島耕作」
天王寺大     8200万円 「ミナミの帝王」
高橋陽一     6900万円 「キャプテン翼」
臼井儀人     6700万円 「クレヨンしんちゃん」
ハロルド作石   5400万円 「ゴリラーマン」
石森章太郎    4700万円 「マンガ 日本経済入門」

フォーブス誌での2010年の日本長者番付


1位) ユニクロの創業者、ファーストリテーリングのCEO柳井正氏で76億ドル(約 9800億円)
2位) サントリー社長、佐治信忠氏で、86億ドル(日本円で約6840億円)
3位) 森トラスト(六本木ヒルズを管理している森ビルのHD)社長森章氏61億ドル(日本円で約 4880億円)
4位) ソフトバンクの創業者孫正義氏で52億ドル(日本円で 4160億円)です。
6位) 楽天の創業者三木谷浩史氏は47億ドル(日本円で約 3760億円)
7位) 任天堂相談役の山内氏34億ドル( 2720億円)

関連記事